JCHO東京新宿メディカルセンター

地域連携・総合相談センター

 

院長補佐、統括責任者

溝尾朗(S63)

 

 

 

昭和の最後に千葉大学医学部を卒業後、千葉大学医学部呼吸器内科に入局し、都立府中病院(現都立多摩総合医療センター)、住友化学千葉工場産業医、安房医師会病院(現安房地域医療センター)、シンガポール日本人会診療所を経て、JCHO東京新宿メディカルセンター(旧東京厚生年金病院)に赴任し、16年が経過しました。当院では呼吸器内科での臨床以外に、地域連携室にも従事し、おもに新宿区の地域連携の構築に寄与してきました。

 

地域連携に関与するようになった契機は、前々院長の木全先生が当院の将来を見越して、回復期リハビリ病棟と緩和ケア病棟の開設、地域連携室の強化という方針を打ち出し、地域連携の強化には、私の診療所医師としての勤務経験が活かせると判断し、任命していただいたことでした。本稿では、現在までの14年間に及ぶ地域連携業務を通して学んだこと、またその間に得た知識を紹介したいと思います。

平成15年の地域連携室は、事務職2人と私の3人だけの小さな組織で、当初は臨床で忙しく、私は地域連携室と当院の医師をつなぐ役割、つまり院内の連携調整をしていただけでした。しかし、新宿区の医療資源を調べ、地域連携室の責任者として、地域の開業の先生方に挨拶回りし、ご意見を聞いている中で、病診連携の重要性と当院の地域連携に欠けている機能がわかってきました。

 新宿区は図1に示すように、全国平均に比べ一般病床数と診療所数が多く、療養病床、亜急性期病床、介護施設は少なく、医療資源が偏っています。この状況の中で、シームレスな連携を行うためには、急性期病院と診療所の連携(病診連携)を強化すること、亜急性期病床を新宿区内に設置することが必要でした(残念ながら慢性期病床は他の地域に依存)。そこで当院では急性期病院でありながら、平成15年回復期リハビリ病棟(78床)、平成16年緩和ケア病棟(18床)、平成26年地域包括ケア病棟(41床)を開設してきました。病診連携の強化のポイントは、平成15年に行われた新宿区医師会による患者アンケートから学びました。アンケートの対象は、急性期病院に通院している約1000人の患者で、半分はかかりつけ医がいませんが、その中で55%の方は、条件が整えば病院から診療所に移ってもよいと答えていました。その上位3つの条件とは、①開業医と病院の情報交換がありデータを共有している、②具合が悪くなった時すぐに病院で診てもらえる、③具合が悪くなった時入院できる、でした2)。

この結果から、当院ではICTによって病院情報をかかりつけ医に提供するシステムの導入(SASTIKR)、地域連携室のスタッフ増加による機能強化(現在は医師1人、看護師3人、MSW5人、事務4人)、救急部の独立と充実を図ることになりました。救急時の受け入れでは、行政による緊急一時入院病床確保事業もとても有用でした。これは、在宅療養をしている新宿区民で、かかりつけ医が入院治療を求めた場合に、新宿区の当院を含む3つの指定された急性期病院が、必ず入院を受け入れる制度です(行政による補助金で、3つの病院に毎日1病床ずつ確保)。当院ではこの制度の利用率が、平成18年はわずか35%でしたが、平成24年には214%まで上昇しました。このような取り組みにより、平成22年の新宿区医師会による医師会会員(医師)アンケートでは、ほとんどの項目で新宿区の中で高い評価を得ることができました(図3)。

 

一方、新宿区は大学病院の数が多く、大学病院も急性期病院の機能を持っていることが特徴ですが、最近大学病院と一般急性期病院との連携が不十分である課題が見えてきました。大学病院から回復期病棟、地域包括ケア病棟、緩和ケア病棟へのスムーズな転院、おもに大学病院で診療していた神経難病の地域での受け入れなどです。また、非がん疾患の緩和ケアでは、診療所と急性期病院とのさらに強い連携が必要であることがわかってきました。これらの課題を解決するために、昨年当院にも訪問看護ステーションを設立し、東京都在宅難病患者訪問診療事業を活用した神経内科専門医による訪問診療、プレ緩和病床の設置にも取り組み始めました。

 

今回は当院での地域連携の取り組みを中心に紹介させていただきましたが、新宿区の他の急性期病院も同様の活動をしており、また基幹病院や中小病院の連携の会を通じて、横のネットワークも築き、医師会、行政、病院すべてが関わり新宿区全体でより良い地域連携を構築しています。

 

今年、東京都医師会は東京都の支援を受けて、東京都病院協会とともに、東京総合医療ネットワークという、東京都全域をカバーする医療情報の共有システムの構築を始めました。これにより区境を超えた連携が可能となり、医療資源の偏在している東京都でも、地域連携がさらに進展することが、期待されます。

今後も地域の人口動態や地域医療構想に基づき、ICTなど最先端の技術を活用しながら、地域連携は発展していくものと思います。不断の努力を重ね、地域医療に貢献していきたいと考えております。先生方にはこれまで同様、ご協力・ご支援をお願いすることになると思いますが、何卒よろしくお願いいたします。